『昭和16年夏の敗戦』 猪瀬直樹


私の本棚 55

      出版社:中公文庫

    昭和16年 日米開戦の8か月前、各役所や民間から30歳代エリートが召集され「総力戦研究所」が発足した。彼らは模擬内閣を組織し、その年の夏、「日本必敗」という数字によって導いた結論を近衛内閣に説明をしていた。

    筆者は、開戦に至った制度上の原因や、経過についても記しています。
    そのなかで、9月には「開戦」は決まっていたが、その判断を全員一致とするためのつじつま合わせとして数字が使われたことを例に、数字の客観性というものは、結局は人間の主観から生じる、と述べています。

    また、誰がどのように意思決定したのかを文書として記録しておくこと、歴史から教訓を導くという考え方が、当時も、そして今も日本は軽視されている、と新型コロナ感染症対応についても触れて指摘しています。
    歴史認識などという言葉をふりかざす前に、記録する意思こそ問われねばならない、と強く訴えています。