私の本棚

清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。

『昨日、若者たちは』 吉田 修一 著


私の本棚 159

    出版社:講談社文庫

四つの短編集。それぞれ香港、上海、ソウル、東京という東アジアの都市を舞台に、オリンピックを遠景にして描かれている。

「挑戦できる人間もいれば、挑戦できない人間もいる」「誰も悪くない。なのに、誰も幸せじゃないのはなぜだ?」「スポーツが教えてくれるのは勝つことじゃない。負けてもいいってことだ」

他者のことへ思いを馳せる自分、先を見通せない自分、答えのない人生に悩みながら前を向いて生きようとしてする若者たちを描いています。

『タワマン理事長 ある電通マンの記録』 竹中信勝 著 


私の本棚 158

    出版社:ワニブックス

あこがれの「タワマン」に住む著者は、輪番制によって理事になり、抽選によって理事長に就任します。その理事長時代に発生したエピソードや修繕積立金値上げへの奮闘が記されています。あとがきで、マンション住民の日常的なコミュニケーションが重要だ、と述べています。

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」23年間の記録』清武英利 著


私の本棚 157

    出版社:文春文庫

映画化もされたノンフィクション作品。生まれながらに治療困難な心臓疾患を抱えた次女の筒井佳美。町工場社長の父 宣政は「人工心臓をつくって娘を助ける」と決意し、医療機器メーカーを立ち上げ、医療研究会に参加し奔走する。佳美とその父母、姉妹の思いと愛と行動を描いた実話の物語。

なお、宣政が興した㈱東海メディカルプロダクツは、国産初のIABPバルーンカテーテルを開発した企業です。

『サラブレッドはどこへ行くのか 「引退馬」から見える日本競馬』 平林健一 著


私の本棚 156

    出版社:NHK出版新書

サラブレッドの一生に関わるさ様々な人たちへの取材をもとにまとめられた一冊。平林氏は、引退馬の問題を扱ったドキュメンタリー映画「今日もどこかで馬は生まれる」を制作している。映画を企画した2017年から7年が経過するなか、「ウマ娘」の影響などもあり引退馬支援への動きを著者は感じている。

引退馬問題に最も責任のあるのはJRAだとし、「競馬を楽しみながら引退馬支援を行える」取組みを求めています。また、メディアには、ポジティブな情報だけでなく引退馬に関する頭数やコストなど、実情の一端を正しく発信してほしい、と述べています。

そのうえで、引退馬の現状に違和感を持つ全ての人に、どんな些細なことでもいいから自分ができることをやってみてほしい、と訴えています。

『黄金旅程』馳星周 著


私の本棚 155

    出版社:集英社

素質を秘めながら本気で走らない一頭のサラブレッド エゴンウレア号。馬産地北海道の日高浦河を舞台に、この一頭に関わる生産者、育成者、装蹄師、馬主たちの、それぞれの思いを描いた小説。また、競馬が抱えている競走馬の引退後の問題にも触れています。なお、エゴンウレア号のモデルはステイゴールド号、小説のタイトル黄金旅程はステイゴールド号の香港表記です。

恋愛や八百長、ヤクザも登場するのですが・・・。

『「指示通り」ができない人たち』 榎本博明 著


私の本棚 154

    出版社:日経プレミアムシリーズ

相手に何かを説明をするときに、人は大きな勘違いをしている、と著者は述べています。それは、相手も同じように知識をもち、論理的に物事を考え、根拠をもって理屈で判断すると思っている点です。

そのうえで、相手からの指示や要望を理解出来るようにするためには、認知能力(知的能力そのもの)、メタ認知能力(振り返る力)、非認知能力(感情や忍耐力など)を高めることが重要だ、と説いています。

『母という呪縛 娘という牢獄』 齊藤 彩 著


私の本棚 153

    出版社:講談社

2018年に起きた、滋賀県在住の看護学生(逮捕時は看護師)が母親を殺害し、死体損傷、遺棄した事件のノンフィクション。
子どものころから母親による体罰等を受け、9浪させられ大学看護学科に進学していた。

母と娘のLINEのやり取りや、著者が被告との面会や手紙のやり取りを通じてまとめられている。体罰や言葉の暴力を浴びせる母親、その母親から逃げようと家出を繰り返す娘、一方で娘と旅行をしたり、一緒にお風呂に入るような母親。
娘は裁判で「私か母のどちらかが死ななければ終わらなかったと、現在でも確信している」と述べている。

いびつな親子をまわりが察知し対応していたならば、こんな悲劇は起こらなかったのではないか、もっと早い段階で健全な生活を取り戻すことが出来たのではないか、・・・そんなことなどを思った一冊です。

『ぼくのニセモノをつくるには』 ヨシタケシンスケ 著


私の本棚 152

    出版社:ブロンズ新社

宿題やお手伝いなどをやりたくない けんたくんは、自分の「ニセモノお手伝いロボット」を買って、全部やってもらうことを思いつきます。完璧なニセモノを目指すロボから、人となりをあれこれ質問攻めさるけんたくんは、「自分とは?」と自問していきます。

著者が読者に伝えたかったのは、けんたくんが言っている以下のことだと思います。

ぼくはひとりしかいない。
おばあちゃんが いってたけど にんげんは ひとりひとり かたちがちがう 木のようなものらしい。
じぶんの木の 「しゅるい」は うまれつきだから えらべないけれど それを どうやって そだてて かざりつけするかは じぶんで きめられるんだって。

木の おおきさとかは どうでもよくて じぶんの木を 気にいってるかどうかが いちばん だいじらしい。

『ご近所トラブルシューター』 上野 歩 著 


私の本棚 151

    出版社:光文社文庫

事件になる前に近隣のもめごとを解決する(株)近隣トラブルシューター。そこに再就職した元警察官の一絵亮が、若い先輩社員の望月明日香と組んで、騒音やストーカー、ゴミ屋敷といった問題の対応にあたっていく。
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上野歩『ご近所トラブルシューター』 / 光文社文庫

『フォールン・ブリッジ 橋渡し不可能な分断社会を生きるために』 御田寺 圭 著


私の本棚 149

    出版社:徳間書店

著者は「私たちは、つながりながら分断する時代に生きている」と指摘し、行き場のない若者や就職氷河期世代、高齢者の実態、資本主義の未来といった18のテーマについて記しています。そして、その実態を知ることによって、分断された間に橋を架けられるのではないかと述べています。

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