私の本棚
清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。
『「便利」は人を不幸にする』 佐倉統
- 出版社: 新潮選書
2011年3月11日の東日本大震災によって、技術を駆使した経済的繁栄には様々なリスクが埋め込まれているということを日本人は体感させられた。福島第一原発事故は「便利」が人を不幸にした典型的な事例だ、と著者は指摘しています。
そのうえで、日本社会は異論や主流でない意見への許容度が低い。しかし、単一の生態系が環境の変化に対応できないように、さまざまな意見が存在している多様性こそが長い目でみれば社会を安定させる、と述べています。そして、「異論」を適切に評価し、少数意見をどのように常駐化させていくかが課題である、とまとめています。
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佐倉統『「便利」は人を不幸にする』(新潮選書刊)
『ソクラテスの弁明』 プラトン / 『プラトン ソクラテスの弁明』 岸見一郎 /『マンガで読破 ソクラテスの弁明』プラトン
『文化の居場所のつくり方 久留米シティプラザからの地方創生』久留米シティプラザ編集委員会 編集 槻橋 修 監修
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』 加藤 陽子 著
- 出版社:朝日出版社
高校生に行った近現代史の講義をまとめた一冊。教科書だけでは分からない、その時その時に各国及び各人はどう考えていたのかを教えています。
アメリカ人歴史家 アーネスト・メイの主張3点を紹介しています。
(1) 外交政策形成者は、歴史が教えたり予告したりしていると自ら信じているものの影響をよく受ける。
(2) 外交政策形成者は、通常歴史を誤用する。
(3) 外交政策形成者は、そのつもりになれば、歴史を選択して用いることができる。
そのうえで著者は、人々は重要な決定をするときに、自ら知っている範囲の過去の出来事を、自らが解釈した範囲で、今回の問題と一致しているか見つけ出す作業をしている。よって、結果的に正しい決定を下せる可能性が高い人というのは、広い範囲の過去の出来事が、真実に近い解釈に関連づけられて、より多く頭に入っている人だ、と述べています。
「おわりに」では「類推され想起され対比される歴史的な事例が、若い人の頭や心にどれだけ豊かに蓄積されファイリングされているかどうかが決定的に大事なことだ」と結んでいます。
『街路樹は問いかける』藤井 英二郎 著、海老澤 清也 著、當内 匡 著、水眞 洋子 著
『孤独は社会問題』多賀幹子
『「さみしさ」の力 ─孤独と自立の心理学』 榎本 博明
- 出版社:ちくまプリマー新書
現代は、自立のために必要な「さみしさ」の足りない時代ではないか。今の人たちは誰かとつながっていないと不安。が、つながっていても物足りない。結局ますます一人でいられずSNSが逃げ場となる。しかし、SNSでのメッセージや情報に反応する受け身の過ごし方では自分を見失う、と著者は現状を認識し指摘しています。
そのうえで、「さみしさ」を感じて一人になって自分と向き合い、自分の中に沈潜しなければ心の声は聞こえてこない、一人の時間だからこそ思考も深まり、見えてくるものがある、と述べています。
刺激を絶ちあえて退屈な状況を生みだすことや、一人で行動できるというのはかっこいいことなのだ、という意識改革が必要だとも記しています。
『白い航跡(上)・(下)』 吉村昭
- 出版社:講談社文庫
東京慈恵会医科大学病院創立者 高木兼寛の伝記小説。
薩摩藩軍医として戊辰戦争に従軍した主人公は、先進的な西洋医学を目の当たりにする。明治時代になると海軍に入り、イギリスへ留学し医療を学ぶ。
帰国した当時、海軍・陸軍は軍人が脚気によって病死するという大きな問題を抱えていた。高木は、脚気の原因は食べ物にあるとする「食物原因説」を唱える。海外では賛同を得、評価を受けるものの、ドイツ医学を基軸とする陸軍、その軍医の森鴎外は細菌説を主張し、日本ではこちらが主流派となる。
日清・日露戦争にて、海軍では高木の提唱した食料対策によって脚気はなくなったが、陸軍で亡くなった軍人は、戦死ではなく脚気による病死がほとんどであった。
正しい説が日本では受け入れられないことに対する高木の悶々とした気持ちも記されています。