『白い航跡(上)・(下)』 吉村昭 


私の本棚 60

      出版社:講談社文庫

    東京慈恵会医科大学病院創立者 高木兼寛の伝記小説。
    薩摩藩軍医として戊辰戦争に従軍した主人公は、先進的な西洋医学を目の当たりにする。明治時代になると海軍に入り、イギリスへ留学し医療を学ぶ。

    帰国した当時、海軍・陸軍は軍人が脚気によって病死するという大きな問題を抱えていた。高木は、脚気の原因は食べ物にあるとする「食物原因説」を唱える。海外では賛同を得、評価を受けるものの、ドイツ医学を基軸とする陸軍、その軍医の森鴎外は細菌説を主張し、日本ではこちらが主流派となる。

    日清・日露戦争にて、海軍では高木の提唱した食料対策によって脚気はなくなったが、陸軍で亡くなった軍人は、戦死ではなく脚気による病死がほとんどであった。

    正しい説が日本では受け入れられないことに対する高木の悶々とした気持ちも記されています。