私の本棚
清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。
『「指示通り」ができない人たち』 榎本博明 著
『母という呪縛 娘という牢獄』 齊藤 彩 著
- 出版社:講談社
2018年に起きた、滋賀県在住の看護学生(逮捕時は看護師)が母親を殺害し、死体損傷、遺棄した事件のノンフィクション。
子どものころから母親による体罰等を受け、9浪させられ大学看護学科に進学していた。
母と娘のLINEのやり取りや、著者が被告との面会や手紙のやり取りを通じてまとめられている。体罰や言葉の暴力を浴びせる母親、その母親から逃げようと家出を繰り返す娘、一方で娘と旅行をしたり、一緒にお風呂に入るような母親。
娘は裁判で「私か母のどちらかが死ななければ終わらなかったと、現在でも確信している」と述べている。
いびつな親子をまわりが察知し対応していたならば、こんな悲劇は起こらなかったのではないか、もっと早い段階で健全な生活を取り戻すことが出来たのではないか、・・・そんなことなどを思った一冊です。
『ぼくのニセモノをつくるには』 ヨシタケシンスケ 著
- 出版社:ブロンズ新社
宿題やお手伝いなどをやりたくない けんたくんは、自分の「ニセモノお手伝いロボット」を買って、全部やってもらうことを思いつきます。完璧なニセモノを目指すロボから、人となりをあれこれ質問攻めさるけんたくんは、「自分とは?」と自問していきます。
著者が読者に伝えたかったのは、けんたくんが言っている以下のことだと思います。
ぼくはひとりしかいない。
おばあちゃんが いってたけど にんげんは ひとりひとり かたちがちがう 木のようなものらしい。
じぶんの木の 「しゅるい」は うまれつきだから えらべないけれど それを どうやって そだてて かざりつけするかは じぶんで きめられるんだって。
木の おおきさとかは どうでもよくて じぶんの木を 気にいってるかどうかが いちばん だいじらしい。
『ご近所トラブルシューター』 上野 歩 著
『フォールン・ブリッジ 橋渡し不可能な分断社会を生きるために』 御田寺 圭 著
『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』 麻布競馬場 著
『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』 桂幹 著
『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』 高橋 真樹 著
『ブルーマリッジ』 カツセマサヒコ 著
- 出版社:新潮社
テーマは「無自覚な加害」
主人公は同じ会社に勤める二人。大学生時代から付き合っている同棲相手にプロポーズをする雨宮守と、妻から離婚を迫られ、社内ではパワハラで通報される土方剛。人事部の雨宮が営業部の土方を事情聴取する。
雨宮が婚約者にしてきた言動、大学時代に同じサークルの女性に行った仕打ち、土方の妻を全く顧みない生活、部下への指導という名の行為。二人の男性は無自覚に女性を傷つけ、忘却している。
上司である人事部長が雨宮に次のようの言うシーンがあります。
「今思えばあれは相手を傷つける発言だった、と後から気付くものもありますし、今もまだ自覚できない加害も、きっとあると思います。前にも話したと思いますが、そもそも僕はこの国に男性として生まれて、異性愛者である時点で、無自覚なところでたくさんの特権を持って生きているんですよね。それを当たり前のように行使するたび、誰かを傷つけているんじゃないか、と考えれば、もうこの社会で男性として生きることは、それだけで加害性を帯びている、ということとほぼイコールなんじゃないか」
雨宮は婚約者から過去の話をされ、「過去は捨てられない。拭えない。加害の過去がある自分には、その過去を棚に上げてまでして、声高に善や正義を叫ぶ権利もない。それでも、みんなで声を上げていかないと、たぶん男は、この男性中心社会は、変われない」と思いはじめていきます。