私の本棚

清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。

『職場の発達障害』 岩波明 著


私の本棚 114

      出版社:PHP新書

    過去において発達障害は小児期・思春期の問題ととらえられてきた。しかし、成人のADHD(注意欠如・多動性)の有病率は最少でも2~3%といったデータがあるように、教育や行政、職場における対応が求められている。
    また、成人期発達障害支援は、ASD(自閉症スペクトイラム障害)に対する対応に焦点があてられてきた経過がるため、ADHDに特化した就労支援はまだこれからの状況にある。
    そのうえで、ADHDやASDにおける就労上の困難さに対する理解を広めていくことが必要だ、と著者は指摘しています。

『自転しながら公転する』 山本文緒 著


私の本棚 113

      出版社:新潮文庫

    主人公は32歳の独身女性、与野都。恋愛、結婚、友達、職場、セクハラ、親の介護といった問題を抱えている。何かを決められず、時間は過ぎ環境は変わっていく。思い悩みながら生きる30代の女性を描いた小説。

    同じような息苦しさを感じている人は多いのではないだろうか。小説の中で登場人物たちが解決へのヒントを述べています。
    ○「不安じゃない日本人なんていないんじゃねえの」
    ○「人に助けてって言えなかったけど、言ってもいいんだってさっき思った」
    ○「運命はないってことは、正解はないってことじゃない。正解はないってことは間違いもない、つまり失敗もない」
    ○「やりたいことがあれば、話は簡単なのかもしれない。欲望が強い人が羨ましいな。私はあんまりそういうのがなくて」
    「それもいいことなんじゃない? 過剰じゃないってことはバランスが取れてるんだし」
    ○「長く一緒にいれば行き詰まるときもある。でも変化していけばなんとか突破口は見つかるものなのかもしれない。」
    ○「別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。 少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ。」

    プロローグとエピローグ、主体が変わる記述などの構成も含め楽しめた一冊でした。
    —–
    山本文緒 『自転しながら公転する』(新潮文庫刊)

『安いニッポンからワーホリ!』 上阪徹 著


私の本棚 112

      出版社:東洋経済新報社

    オーストラリアで暮らすワーホリ利用者へのインタビューによって構成された一冊。

    ワーホリの目的も変化してきた。まだ贅沢だった「海外」をモラトリアム的に楽しむ「昭和のワーホリ」は、英語を学ぶための「平成のワーホリ」となり、「令和のワーホリ」は現地から直接SNSで情報が得られるようになり、「稼げる」という状況もある。

    ワーホリや留学の価値は、多様性に触れることによって視野を広げ、人生観を変えられる、マインドチェンジが出来るということだ、と登場するワーホリ利用者は述べています。著者も、世界で生き抜く力を身につけておいたほうがいい、その力が「選択肢」をつくり武器になると述べ、「若者よ、今こそ海外に出よう」と訴えています。

    ただし、無計画な人たちには厳しく、海外生活の質は英語力で決まるとも指摘しています。

    日本が「失われた30年」から立ち直るには、過去の成功体験にとらわれないことであり、そのためには、海外に出て「新しい体験」をした人材が必要だ、そうでなければ日本は変われない、と著者は記しています。

『ルミネッセンス』 窪美澄 著


私の本棚 111

      出版社:光文社

    ダークサイドな短編集。どの作品も、昭和の象徴の一つとも言える「団地」を舞台に盛り込んでいる。時代は平成、令和へと移るが、昭和、つまり過去の出来事や思いに囚われながら生きている人たち。そんななか、何かがトリガーとなり、休符のつもりが囚われから闇という沼に落ちていったり、逆に心の変化が生じる。

    読後感の悪さが、作品に引き込まれる一つの魅力に感じられます。

『i (アイ)』 西加奈子 著


私の本棚 110

      出版社:ポプラ文庫

    主人公のアイ、友達のミナ、結婚相手のユーの3人を通して著者が訴えたかったのは、自分は社会のためにあるのではなく、自分のためにあること。だから、自分のことをまず大切にしていいのだということ。そして、その自分の幸せを願う気持ちと、世界の誰かを思いやる気持ちは矛盾するものではないよ、ということなのではないでしょうか。

『脂肪のかたまり』 モーパッサン著


私の本棚 109

      出版社:岩波文庫

    時代は普仏戦争 プロシャ軍に占領されたルアンから、フランス人一行10人が馬車に乗って抜け出す道中を描いている。何か事が起きた際に顕れる人間性、人間の醜さやエゴイズム、残酷さといったものが描かれている一冊です。

『犯罪心理学者は見た 危ない子育て』 出口保行 著


私の本棚 108

      出版社:SB新書

    著者は少年鑑別所等で鑑別に従事し非行少年の心理分析を行うなかで、その背景には親の養育があると指摘しています。そのうえで、心理学者サイモンズの分類をベースに、子育てのタイプを「過保護型」「高圧型」「甘やかし型」「無関心型」の4つに分けて分析しています。

    思い込みやバイアスを排除し、振り返りながら、4つのどれかに極端に偏った子育てにならないことが大事だと述べています。

『にげてさがして』 ヨシタケシンスケ著


私の本棚 107

      出版社:赤ちゃんとママ社

    第16回柳田邦男絵本大賞受賞者が読まれた絵本。

    逃げることは、はずかしいことでも悪いことでもなく、自分を守るための選択であるということ。
    逃げることは、大事な何かを探しにいくことであるということ。
    そして、そのことを人は自分で決めることができるということ。

    子どもだけではなく、大人にとっても響く一冊の絵本です。

『激安ニッポン』 谷本真由美 著


私の本棚 106

      出版社:マガジンハウス新書

    際立って低い成長率、30年間ほとんど伸びていない給与など、日本人は海外の人から見ると信じられないほど低賃金で働いていると指摘しています。そして、日本が世界と比較していかに「安い国」なのかを記しています。

    その結果、外国人による不動産売買や所有の禁止事項がほとんどないため、家も土地も買収されていること、サービスも質も高いのに激安で加入条件も緩いため、健康保険制度が海外から狙われていることに警鐘を鳴らしています。

    著者は、日本経済が落ち込んでいる要因に「非正規雇用」の増加や、非効率な仕事のあり方を挙げています。日本の現状を見つめ、他国の実態を知ることが必要だと述べています。

『救命センター「カルテの真実」』 /『 救命センター カンファレンス・ノート』 浜辺祐一 著 


私の本棚 105

      出版社:集英社

    著者は救命救急センターの医師。エッセイが小説仕立てになっていて読み進められる。「突発・不測」の事態に対応する救命救急医療で起きている高齢者搬送の増加、虐待事案、軽症者の救急車利用、リピーター患者。また、対応する医師たちの、患者のために行うべき治療なのか、患者の優先度といった葛藤など、事実をもとにした救命救急の現場に携わる関係者の大変さ、苦悩が伝わってきます。

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