私の本棚

清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。

『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』 片野ゆか 著


私の本棚 123

    出版社:集英社

日本では年間約7000頭のサラブレッドが生産されています。一方で約6000頭が競走馬としての役割を終えて引退していますが、その多くの行方は分かっていない実情があります。

角居勝彦 元JRA調教師のインタビュー記事からこの事実を知った著者が、引退競走馬に携わっている方々を訪ねたルポタージュ。

『兎は薄氷に駆ける』 貴志祐介 著


私の本棚 122

    出版社:毎日新聞出版

冤罪を題材にした小説。亡くなった父親の殺人容疑は冤罪だと信じる日高英之、彼が殺人罪で逮捕、公訴される。その裁判での検事と弁護士によるやりとりを通して話が進んでいく。
危険な薄氷の上で割れて呑み込まれるのは駆ける兎なのか、追い込んだつもりが誘い込まれた猟犬なのか。

『詭弁社会』 山崎雅弘 著


私の本棚 121

    出版社:祥伝社新書

「お答えを控えさせていただく」「そのようなご批判は当たらない」といった政治家の答弁。これらは「詭弁」、一見もっともらしいが、実は論理的に正しくない主張や説明である。国民や政治記者の「過剰な従順さ」や「過剰な物わかりの良さ」が政治家の詭弁をこれほど社会に蔓延させた原因の一つと言える。

著者は、詭弁を見抜くための批判的思考は、社会の倫理的破壊(モラルハザード)を回避するためにも必要な能力であり、それを備えた国民を一人でも多く増やすことは、長いスパンで見て、公益に寄与すると述べ、ウソと詭弁という二匹の怪物と本気で戦うべきだと訴えています。

『日本人という呪縛』 デニス・ウェストフィールド 著


私の本棚 120

    出版社:徳間書店

著者は在日オーストラリア人のジャーナリスト。

多様性を認めない日本の社会や集団、世界標準からかけ離れた日本のメディア、自国民を守れない外交、景気低迷を政府の経済失策と見ず、政治の変革を拒んできた国民・・・。

予定調和と現状維持を崩さないように「政治」と「官僚」と「メディア」が変革を頑なに阻んでいる。その結果、国民は社会が受け入れる基準に沿って考えさせられているということに、日本人はまず気付いて欲しいと訴えています。

日本人は意識せずに自分で自分に呪縛を与えていると指摘し、今までの「常識」を疑い、日本人的価値観に縛られていることを見つめ直し、制度やシステムから自由と人間性を取り戻すべきだ、とオーストラリアの例なども示しながら記しています。

『本を守ろうとする猫の話』 夏川草介 著


私の本棚 119

    出版社:小学館

 
「本」を本来のあり方として扱っていない人たちから、「本」を守るために猫と主人公の高校生が旅に出るファンタジー小説。

著者は解説のなかで「本」、とりわけ時代を超えて受け継がれてきた名作の価値について述べています。それらの作品を読み解くには苦労が伴うが、そのことによって人間の本性に触れる真実、時代を超える普遍性というものを感じることが出来ると記しています。

『まほうの寓話』 戸田智弘 著


私の本棚 118

    出版社:幻冬舎

 
30の寓話が解説とともに載せられており、生きていくために必要なことや教訓、判断する際のヒントが記されています。

『ツミデミック』 一穂ミチ 著


私の本棚 117

    出版社:光文社

新型コロナウイルスのパンデミックによって、日常生活は一変した。緊急事態宣言によって職を失ったり、フードデリバリー利用が増えたり、家族関係の悪化、メンタルへの影響、自粛警察やワクチン陰謀説・・・。
登場するのはそんな社会に苦しんだ人たち。怖い話やほっとする話の6つの短編集。
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一穂ミチ『ツミデミック』/光文社

『仕事の辞め方』 鈴木おさむ 著


私の本棚 116

      出版社:幻冬舎

    今年3月末で放送作家業を引退した著者が伝えたいのは、「自分の人生は自分で決めて動くしかない」「自分で大きく舵を切らないと変わらない」ということ。幸せは年とともに変わっていくし、サイズも形も人によって違う、幸せこそオーダーメイドだということ。

    これまでの仕事を通して、今の仕事にワクワクしているのか? バランスを取る立場なって若者を説得していないか(ソフト老害)? 仕事において自分の代わりはいることを自覚しているか? と問うています。
    そして、自分の人生・仕事を俯瞰で見ること、人脈は宝であり縁を増やして円にしていくこと、好奇心力を鍛えることが大事だと述べています。

『ジェンダー・クライム』 天童荒太 著


私の本棚 115

      出版社:文藝春秋

    性犯罪は被害者とその家族、加害者側の家族という多くの人を傷つけ悲しませる。そして、それぞれのその後の人生に大きな影響を与え続けていくことを描いています。

    著者は謝辞のなかで、女性や子どもが被害を受ける犯罪やハラスメントを生む要因の一つが、「主人」「奥さん」といった対等ではない関係を裏に秘めた言葉を、無意識に使う文化にあるのではないか、と述べています。
    小説のなかでは、主人公の鞍岡刑事が「無意識のうちに、女という性を軽く見ていたからですよ。性犯罪についても、たかがと思う心があったからです。一人の人間の人生を壊し、魂を殺すのも同然の、むごい犯罪が行われたのだという意識があれば、・・・。これは、この国の根っこにある、我々の罪ですよ」と迫っています。

    物語は重層的に展開をしていきますが、各所に伏線が記されています。最後の刑事二人のシーンに涙して読み終えました。

『職場の発達障害』 岩波明 著


私の本棚 114

      出版社:PHP新書

    過去において発達障害は小児期・思春期の問題ととらえられてきた。しかし、成人のADHD(注意欠如・多動性)の有病率は最少でも2~3%といったデータがあるように、教育や行政、職場における対応が求められている。
    また、成人期発達障害支援は、ASD(自閉症スペクトイラム障害)に対する対応に焦点があてられてきた経過がるため、ADHDに特化した就労支援はまだこれからの状況にある。
    そのうえで、ADHDやASDにおける就労上の困難さに対する理解を広めていくことが必要だ、と著者は指摘しています。

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