私の本棚

清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。

『黄金旅程』馳星周 著


私の本棚 155

    出版社:集英社

素質を秘めながら本気で走らない一頭のサラブレッド エゴンウレア号。馬産地北海道の日高浦河を舞台に、この一頭に関わる生産者、育成者、装蹄師、馬主たちの、それぞれの思いを描いた小説。また、競馬が抱えている競走馬の引退後の問題にも触れています。なお、エゴンウレア号のモデルはステイゴールド号、小説のタイトル黄金旅程はステイゴールド号の香港表記です。

恋愛や八百長、ヤクザも登場するのですが・・・。

『「指示通り」ができない人たち』 榎本博明 著


私の本棚 154

    出版社:日経プレミアムシリーズ

相手に何かを説明をするときに、人は大きな勘違いをしている、と著者は述べています。それは、相手も同じように知識をもち、論理的に物事を考え、根拠をもって理屈で判断すると思っている点です。

そのうえで、相手からの指示や要望を理解出来るようにするためには、認知能力(知的能力そのもの)、メタ認知能力(振り返る力)、非認知能力(感情や忍耐力など)を高めることが重要だ、と説いています。

『母という呪縛 娘という牢獄』 齊藤 彩 著


私の本棚 153

    出版社:講談社

2018年に起きた、滋賀県在住の看護学生(逮捕時は看護師)が母親を殺害し、死体損傷、遺棄した事件のノンフィクション。
子どものころから母親による体罰等を受け、9浪させられ大学看護学科に進学していた。

母と娘のLINEのやり取りや、著者が被告との面会や手紙のやり取りを通じてまとめられている。体罰や言葉の暴力を浴びせる母親、その母親から逃げようと家出を繰り返す娘、一方で娘と旅行をしたり、一緒にお風呂に入るような母親。
娘は裁判で「私か母のどちらかが死ななければ終わらなかったと、現在でも確信している」と述べている。

いびつな親子をまわりが察知し対応していたならば、こんな悲劇は起こらなかったのではないか、もっと早い段階で健全な生活を取り戻すことが出来たのではないか、・・・そんなことなどを思った一冊です。

『ぼくのニセモノをつくるには』 ヨシタケシンスケ 著


私の本棚 152

    出版社:ブロンズ新社

宿題やお手伝いなどをやりたくない けんたくんは、自分の「ニセモノお手伝いロボット」を買って、全部やってもらうことを思いつきます。完璧なニセモノを目指すロボから、人となりをあれこれ質問攻めさるけんたくんは、「自分とは?」と自問していきます。

著者が読者に伝えたかったのは、けんたくんが言っている以下のことだと思います。

ぼくはひとりしかいない。
おばあちゃんが いってたけど にんげんは ひとりひとり かたちがちがう 木のようなものらしい。
じぶんの木の 「しゅるい」は うまれつきだから えらべないけれど それを どうやって そだてて かざりつけするかは じぶんで きめられるんだって。

木の おおきさとかは どうでもよくて じぶんの木を 気にいってるかどうかが いちばん だいじらしい。

『ご近所トラブルシューター』 上野 歩 著 


私の本棚 151

    出版社:光文社文庫

事件になる前に近隣のもめごとを解決する(株)近隣トラブルシューター。そこに再就職した元警察官の一絵亮が、若い先輩社員の望月明日香と組んで、騒音やストーカー、ゴミ屋敷といった問題の対応にあたっていく。
ーーー
上野歩『ご近所トラブルシューター』 / 光文社文庫

『フォールン・ブリッジ 橋渡し不可能な分断社会を生きるために』 御田寺 圭 著


私の本棚 149

    出版社:徳間書店

著者は「私たちは、つながりながら分断する時代に生きている」と指摘し、行き場のない若者や就職氷河期世代、高齢者の実態、資本主義の未来といった18のテーマについて記しています。そして、その実態を知ることによって、分断された間に橋を架けられるのではないかと述べています。

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』 麻布競馬場 著


私の本棚 149

    出版社:集英社文庫

22作品の短編集。他人よりも優越していたい、という東京への、港区への、いい大学への、タワマンへの憧れ。しかし、その先には何があるのか。結局、この部屋からは東京タワーは永遠に見えないという、主人公たちの孤独と悲愴が描かれている。

著者は作品のなかで「お前はこの東京を自由に駆けているようで、実のところ鞭打たれながら決められたコースを競わされているかわいそうな馬だ」と記しています。

『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』 桂幹 著


私の本棚 148

    出版社:集英社新書

著者の父親はシャープ元副社長、自身はTDK社員としてリストラにあう。
そんな親子の実体験から、日本の電機産業が凋落した原因として「五つの大罪」を挙げている。
1) 誤認の罪
2) 慢心の罪
3) 困窮の罪
4) 半端の罪
5) 欠落の罪
そのうえで、議論を避けないこと、ダイバーシティを高めること、エンゲージメントを向上させること等を提言している。

『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』 高橋 真樹 著 


私の本棚 147

    出版社:集英社新書

日本の住宅は、国際的な断熱基準をまったく満たしていない。そのことによる健康被害や、光熱費が高くつくという経済的な損失が生じている。そして、それは環境問題やエネルギー安全保障の面からも大きな損失だ、と著者は指摘しています。
事例や効果、学校等の公共施設における取組みを示したうえで、これからの住宅は断熱等級6以上、気密性能C価1.0以下が必須だと述べています。

『ブルーマリッジ』 カツセマサヒコ 著


私の本棚 146

    出版社:新潮社

テーマは「無自覚な加害」
主人公は同じ会社に勤める二人。大学生時代から付き合っている同棲相手にプロポーズをする雨宮守と、妻から離婚を迫られ、社内ではパワハラで通報される土方剛。人事部の雨宮が営業部の土方を事情聴取する。

雨宮が婚約者にしてきた言動、大学時代に同じサークルの女性に行った仕打ち、土方の妻を全く顧みない生活、部下への指導という名の行為。二人の男性は無自覚に女性を傷つけ、忘却している。

上司である人事部長が雨宮に次のようの言うシーンがあります。
「今思えばあれは相手を傷つける発言だった、と後から気付くものもありますし、今もまだ自覚できない加害も、きっとあると思います。前にも話したと思いますが、そもそも僕はこの国に男性として生まれて、異性愛者である時点で、無自覚なところでたくさんの特権を持って生きているんですよね。それを当たり前のように行使するたび、誰かを傷つけているんじゃないか、と考えれば、もうこの社会で男性として生きることは、それだけで加害性を帯びている、ということとほぼイコールなんじゃないか」

雨宮は婚約者から過去の話をされ、「過去は捨てられない。拭えない。加害の過去がある自分には、その過去を棚に上げてまでして、声高に善や正義を叫ぶ権利もない。それでも、みんなで声を上げていかないと、たぶん男は、この男性中心社会は、変われない」と思いはじめていきます。

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