私の本棚
清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。
『フォールン・ブリッジ 橋渡し不可能な分断社会を生きるために』 御田寺 圭 著
『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』 麻布競馬場 著
『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』 桂幹 著
『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』 高橋 真樹 著
『ブルーマリッジ』 カツセマサヒコ 著
- 出版社:新潮社
テーマは「無自覚な加害」
主人公は同じ会社に勤める二人。大学生時代から付き合っている同棲相手にプロポーズをする雨宮守と、妻から離婚を迫られ、社内ではパワハラで通報される土方剛。人事部の雨宮が営業部の土方を事情聴取する。
雨宮が婚約者にしてきた言動、大学時代に同じサークルの女性に行った仕打ち、土方の妻を全く顧みない生活、部下への指導という名の行為。二人の男性は無自覚に女性を傷つけ、忘却している。
上司である人事部長が雨宮に次のようの言うシーンがあります。
「今思えばあれは相手を傷つける発言だった、と後から気付くものもありますし、今もまだ自覚できない加害も、きっとあると思います。前にも話したと思いますが、そもそも僕はこの国に男性として生まれて、異性愛者である時点で、無自覚なところでたくさんの特権を持って生きているんですよね。それを当たり前のように行使するたび、誰かを傷つけているんじゃないか、と考えれば、もうこの社会で男性として生きることは、それだけで加害性を帯びている、ということとほぼイコールなんじゃないか」
雨宮は婚約者から過去の話をされ、「過去は捨てられない。拭えない。加害の過去がある自分には、その過去を棚に上げてまでして、声高に善や正義を叫ぶ権利もない。それでも、みんなで声を上げていかないと、たぶん男は、この男性中心社会は、変われない」と思いはじめていきます。
『うちの父が運転をやめません』 垣谷 美雨 著
- 出版社:角川文庫
高齢ドライバーによる事故のニュースを見て、故郷に住む78歳の父親のことが気になった主人公の猪狩雅志。
父親に免許返納を迫るものの反発にあう。両親をはじめ車なしでは生活が難しい田舎の実情、サラリーマン人生のこの先に不安を覚える主人公、農業の道に進みたいと考える高校生息子の息吹。雅志は会社勤めを辞めて両親の暮らす故郷に戻り、移動スーパーの運転手として働きはじめ、そこに暮らす住民のために役立っていることに充実を感じはじめる。
小説の中で息吹は「誰もがいつかは高齢者になることを、みんなが気づくべきだ」と言い、解説では国際政治学者の岩間陽子氏が「リセットすべきは価値観だ。未来像だ。私たちの幸せは何か?どこへ向かって走っているの?一体どんな暮らしがしたいの?と問うべきなのだ」と述べています。
『訂正する力』 東浩紀 著
- 出版社:朝日新書
「じつは・・・だった」という「訂正する力」は、現状を守りながら変えていく力のことであり、過去との一貫性を主張しながら、実際には過去の解釈を変え、現実に合わせて変化する力だ、と著者は説明しています。そして、ルールを変に解釈する人間が出てきた際にも、この力がないとものごとは続かなくなる、と述べています。
そのうえで、歴史記述についても、過去を訂正しながらゆっくりとまえに進んでいくことが大事だ、と記しています。
また、ゼロかイチか、過去を否定するか肯定するか、リセットするかなにも変えないかの対立の議論になってしまう、日本の風土を変えなければならないとも訴えています。