私の本棚

清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。

『ルミネッセンス』 窪美澄 著


私の本棚 111

      出版社:光文社

    ダークサイドな短編集。どの作品も、昭和の象徴の一つとも言える「団地」を舞台に盛り込んでいる。時代は平成、令和へと移るが、昭和、つまり過去の出来事や思いに囚われながら生きている人たち。そんななか、何かがトリガーとなり、休符のつもりが囚われから闇という沼に落ちていったり、逆に心の変化が生じる。

    読後感の悪さが、作品に引き込まれる一つの魅力に感じられます。

『i (アイ)』 西加奈子 著


私の本棚 110

      出版社:ポプラ文庫

    主人公のアイ、友達のミナ、結婚相手のユーの3人を通して著者が訴えたかったのは、自分は社会のためにあるのではなく、自分のためにあること。だから、自分のことをまず大切にしていいのだということ。そして、その自分の幸せを願う気持ちと、世界の誰かを思いやる気持ちは矛盾するものではないよ、ということなのではないでしょうか。

『脂肪のかたまり』 モーパッサン著


私の本棚 109

      出版社:岩波文庫

    時代は普仏戦争 プロシャ軍に占領されたルアンから、フランス人一行10人が馬車に乗って抜け出す道中を描いている。何か事が起きた際に顕れる人間性、人間の醜さやエゴイズム、残酷さといったものが描かれている一冊です。

『犯罪心理学者は見た 危ない子育て』 出口保行 著


私の本棚 108

      出版社:SB新書

    著者は少年鑑別所等で鑑別に従事し非行少年の心理分析を行うなかで、その背景には親の養育があると指摘しています。そのうえで、心理学者サイモンズの分類をベースに、子育てのタイプを「過保護型」「高圧型」「甘やかし型」「無関心型」の4つに分けて分析しています。

    思い込みやバイアスを排除し、振り返りながら、4つのどれかに極端に偏った子育てにならないことが大事だと述べています。

『にげてさがして』 ヨシタケシンスケ著


私の本棚 107

      出版社:赤ちゃんとママ社

    第16回柳田邦男絵本大賞受賞者が読まれた絵本。

    逃げることは、はずかしいことでも悪いことでもなく、自分を守るための選択であるということ。
    逃げることは、大事な何かを探しにいくことであるということ。
    そして、そのことを人は自分で決めることができるということ。

    子どもだけではなく、大人にとっても響く一冊の絵本です。

『激安ニッポン』 谷本真由美 著


私の本棚 106

      出版社:マガジンハウス新書

    際立って低い成長率、30年間ほとんど伸びていない給与など、日本人は海外の人から見ると信じられないほど低賃金で働いていると指摘しています。そして、日本が世界と比較していかに「安い国」なのかを記しています。

    その結果、外国人による不動産売買や所有の禁止事項がほとんどないため、家も土地も買収されていること、サービスも質も高いのに激安で加入条件も緩いため、健康保険制度が海外から狙われていることに警鐘を鳴らしています。

    著者は、日本経済が落ち込んでいる要因に「非正規雇用」の増加や、非効率な仕事のあり方を挙げています。日本の現状を見つめ、他国の実態を知ることが必要だと述べています。

『救命センター「カルテの真実」』 /『 救命センター カンファレンス・ノート』 浜辺祐一 著 


私の本棚 105

      出版社:集英社

    著者は救命救急センターの医師。エッセイが小説仕立てになっていて読み進められる。「突発・不測」の事態に対応する救命救急医療で起きている高齢者搬送の増加、虐待事案、軽症者の救急車利用、リピーター患者。また、対応する医師たちの、患者のために行うべき治療なのか、患者の優先度といった葛藤など、事実をもとにした救命救急の現場に携わる関係者の大変さ、苦悩が伝わってきます。

『半暮刻』 月村了衛 著


私の本棚 104

      出版社:双葉社

    主人公は二人の青年。一人は児童養護施設で育った翔太、もう一人は一流大学に通う海斗。この二人が半ぐれの経営する店で知り合う。物語は、この店の摘発から一気に展開し、それぞれのその後の人生が描かれている。

    貧困の連鎖や過労死とその隠蔽、利権、裏金、裏社会といった闇を舞台とした社会派小説。一方、外国文学を読んだことによって過去と向きえるようになっていく翔太から、本のもつ力というものも示しています。

    余談ですが、舞台設定のなかで荒川区が登場します。

『ラグビー質的観戦入門』 廣瀬俊朗 著


私の本棚 102

      出版社:KADOKAWA/角川新書

    元日本代表キャプテンの日本ラグビー応援の一冊。試合の時間経過ごとの見方、各ポジションの役割、一つ一つのプレーの意味を解説しています。巻末にはラグビー用語の説明も。


    『ラグビー質的観戦入門』 廣瀬 俊朗 KADOKAWA/角川新書

『東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか』 中村淳彦 著


私の本棚 103

      出版社: 東洋経済新報社

    女子大生、精神疾患患者、シングルマザー、非正規労働者、パワハラ被害者・・・、当事者への取材をまとめたるルポタージュ。

    著者は取材を通じて、真っ暗な未来が見えてしまった、と述べています。そのうえで、社会が無理解のままではSOSがどこにも届かない可能性が高い。いつ誰が転落するかわからない社会である以上、貧困女子たちの声は誰にとっても他人事ではないはずであり、貧困を自分事として考え、貧困の罠が目の前に潜んでいることを知ることが必要だと訴えています。

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