私の本棚
清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。
『孤独は社会問題』多賀幹子
『「さみしさ」の力 ─孤独と自立の心理学』 榎本 博明
- 出版社:ちくまプリマー新書
現代は、自立のために必要な「さみしさ」の足りない時代ではないか。今の人たちは誰かとつながっていないと不安。が、つながっていても物足りない。結局ますます一人でいられずSNSが逃げ場となる。しかし、SNSでのメッセージや情報に反応する受け身の過ごし方では自分を見失う、と著者は現状を認識し指摘しています。
そのうえで、「さみしさ」を感じて一人になって自分と向き合い、自分の中に沈潜しなければ心の声は聞こえてこない、一人の時間だからこそ思考も深まり、見えてくるものがある、と述べています。
刺激を絶ちあえて退屈な状況を生みだすことや、一人で行動できるというのはかっこいいことなのだ、という意識改革が必要だとも記しています。
『白い航跡(上)・(下)』 吉村昭
- 出版社:講談社文庫
東京慈恵会医科大学病院創立者 高木兼寛の伝記小説。
薩摩藩軍医として戊辰戦争に従軍した主人公は、先進的な西洋医学を目の当たりにする。明治時代になると海軍に入り、イギリスへ留学し医療を学ぶ。
帰国した当時、海軍・陸軍は軍人が脚気によって病死するという大きな問題を抱えていた。高木は、脚気の原因は食べ物にあるとする「食物原因説」を唱える。海外では賛同を得、評価を受けるものの、ドイツ医学を基軸とする陸軍、その軍医の森鴎外は細菌説を主張し、日本ではこちらが主流派となる。
日清・日露戦争にて、海軍では高木の提唱した食料対策によって脚気はなくなったが、陸軍で亡くなった軍人は、戦死ではなく脚気による病死がほとんどであった。
正しい説が日本では受け入れられないことに対する高木の悶々とした気持ちも記されています。
『小麦100コロス』ゆきた志旗
『ウソを見破る統計学 退屈させない統計入門』 神永正博
『迷惑行為はなぜなくならないのか?』北折充隆
- 出版社:光文社新書
そもそも「迷惑行為」かどうかは、行為そのものではなく、他者が不快に思うかどうか、という心理的要因による。そしてそれは、時代や、視点・見方、集団によって変わってしまう、流動的であやふやなものだと述べています。
また、ルールを守らないのは一部の人であり、多くの人はルールをきちんと守っていること、あわせて、社会全体が不寛容になりすぎている点にも触れています。
著者は、放置自転車などの事例を挙げながら、迷惑行為の根源は「面倒だ」という意識に行く着くとし、迷惑行為はなくならない、と締めくくっています。そのうえで、だからこそ、感情的にならず、一面的な見方をせず、客観的に考え、お互いのことを慮り、落としどころを探ることが必要だと訴えています。
新型コロナ感染症も拡大が続いているいま、一人ひとりが、医療従事者や社会全体に思いを馳せた行動をとることが求められているのだと考えます。
『岩波文庫的 月の満ち欠け』 佐藤 正午
『昭和16年夏の敗戦』 猪瀬直樹
- 出版社:中公文庫
昭和16年 日米開戦の8か月前、各役所や民間から30歳代エリートが召集され「総力戦研究所」が発足した。彼らは模擬内閣を組織し、その年の夏、「日本必敗」という数字によって導いた結論を近衛内閣に説明をしていた。
筆者は、開戦に至った制度上の原因や、経過についても記しています。
そのなかで、9月には「開戦」は決まっていたが、その判断を全員一致とするためのつじつま合わせとして数字が使われたことを例に、数字の客観性というものは、結局は人間の主観から生じる、と述べています。
また、誰がどのように意思決定したのかを文書として記録しておくこと、歴史から教訓を導くという考え方が、当時も、そして今も日本は軽視されている、と新型コロナ感染症対応についても触れて指摘しています。
歴史認識などという言葉をふりかざす前に、記録する意思こそ問われねばならない、と強く訴えています。