私の本棚

清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。

『「さみしさ」の力 ─孤独と自立の心理学』 榎本 博明


私の本棚 61

      出版社:ちくまプリマー新書

    現代は、自立のために必要な「さみしさ」の足りない時代ではないか。今の人たちは誰かとつながっていないと不安。が、つながっていても物足りない。結局ますます一人でいられずSNSが逃げ場となる。しかし、SNSでのメッセージや情報に反応する受け身の過ごし方では自分を見失う、と著者は現状を認識し指摘しています。

    そのうえで、「さみしさ」を感じて一人になって自分と向き合い、自分の中に沈潜しなければ心の声は聞こえてこない、一人の時間だからこそ思考も深まり、見えてくるものがある、と述べています。

    刺激を絶ちあえて退屈な状況を生みだすことや、一人で行動できるというのはかっこいいことなのだ、という意識改革が必要だとも記しています。

『白い航跡(上)・(下)』 吉村昭 


私の本棚 60

      出版社:講談社文庫

    東京慈恵会医科大学病院創立者 高木兼寛の伝記小説。
    薩摩藩軍医として戊辰戦争に従軍した主人公は、先進的な西洋医学を目の当たりにする。明治時代になると海軍に入り、イギリスへ留学し医療を学ぶ。

    帰国した当時、海軍・陸軍は軍人が脚気によって病死するという大きな問題を抱えていた。高木は、脚気の原因は食べ物にあるとする「食物原因説」を唱える。海外では賛同を得、評価を受けるものの、ドイツ医学を基軸とする陸軍、その軍医の森鴎外は細菌説を主張し、日本ではこちらが主流派となる。

    日清・日露戦争にて、海軍では高木の提唱した食料対策によって脚気はなくなったが、陸軍で亡くなった軍人は、戦死ではなく脚気による病死がほとんどであった。

    正しい説が日本では受け入れられないことに対する高木の悶々とした気持ちも記されています。

『小麦100コロス』ゆきた志旗 


私の本棚 59

      出版社:集英社オレンジ文庫

    大手マンション管理会社を退職して独立した若手マンション管理士が、管理組合からの顧問契約獲得を目指して活動する話。文庫の帯にも「マンションは、買って終わりではない。」と書かれているように、マンションが抱える問題は、今後社会問題の一つになる可能性を議会でも指摘をしてきました。

    小説のなかで登場人物が以下のように述べています。
    「マンションは会社とは違う、人の住むところだから、何でも法律では割り切れない」
    「管理組合というコミュニティにおいて何よりも大切なものは、良好な人間関係です」
    「マンションは人が住むところ。人には情というものがある」

『迷惑行為はなぜなくならないのか?』北折充隆


私の本棚 57

      出版社:光文社新書

    そもそも「迷惑行為」かどうかは、行為そのものではなく、他者が不快に思うかどうか、という心理的要因による。そしてそれは、時代や、視点・見方、集団によって変わってしまう、流動的であやふやなものだと述べています。

    また、ルールを守らないのは一部の人であり、多くの人はルールをきちんと守っていること、あわせて、社会全体が不寛容になりすぎている点にも触れています。

    著者は、放置自転車などの事例を挙げながら、迷惑行為の根源は「面倒だ」という意識に行く着くとし、迷惑行為はなくならない、と締めくくっています。そのうえで、だからこそ、感情的にならず、一面的な見方をせず、客観的に考え、お互いのことを慮り、落としどころを探ることが必要だと訴えています。

    新型コロナ感染症も拡大が続いているいま、一人ひとりが、医療従事者や社会全体に思いを馳せた行動をとることが求められているのだと考えます。

『岩波文庫的 月の満ち欠け』 佐藤 正午


私の本棚 56

      出版社:岩波書店

    神様は人間に二種類の死に方を選ばせた。樹木のように、自分は死んでも子孫を残す道。もう一つは月が満ちて欠けるように、死んでも何回も生まれ変わる道。

    一人の男性を思い続ける輪廻転生の恋愛作品。直木賞受賞作。

『昭和16年夏の敗戦』 猪瀬直樹


私の本棚 55

      出版社:中公文庫

    昭和16年 日米開戦の8か月前、各役所や民間から30歳代エリートが召集され「総力戦研究所」が発足した。彼らは模擬内閣を組織し、その年の夏、「日本必敗」という数字によって導いた結論を近衛内閣に説明をしていた。

    筆者は、開戦に至った制度上の原因や、経過についても記しています。
    そのなかで、9月には「開戦」は決まっていたが、その判断を全員一致とするためのつじつま合わせとして数字が使われたことを例に、数字の客観性というものは、結局は人間の主観から生じる、と述べています。

    また、誰がどのように意思決定したのかを文書として記録しておくこと、歴史から教訓を導くという考え方が、当時も、そして今も日本は軽視されている、と新型コロナ感染症対応についても触れて指摘しています。
    歴史認識などという言葉をふりかざす前に、記録する意思こそ問われねばならない、と強く訴えています。

『昭和の名騎手』 江面弘也


私の本棚 54


      出版社:三賢社

    騎手30人のエピソードが記されています。

    競馬のレベルも騎乗技術も現在の方が断然上であるとしたうえで、昭和の「名手」「闘将」「剛腕」「鉄人」といった個性ある騎手が見せるレースには、スリルや驚きがあった、と著者は述べています。

『友罪』 薬丸 岳


私の本棚 53


      出版社:集英社文庫

    会社の同僚に対し、少年のころ連続児童殺傷事件を犯した殺人者ではないかと疑念を抱く主人公。
    登場人物はそれぞれ隠したい過去を背負って生きています。

    友達が少年殺人犯であったことを知ったとき、どう感じて何を考え、どう接して対応しようとするのかを描いています。

『スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』山極寿一


私の本棚 51


      出版社:ポプラ新書

    スマホによって生活は便利にり、世界中の人とも連絡をとることが出来る。
    しかし、本当にプラスの面だけなのか、と著者は述べています。

    人間が信頼関係を保てるのは150人が限度であることや、スマホの世界が第一になってしまうこと、また、文字≠対話のため、文字による連絡は誤解を生みやすいことなどを指摘しています。さらに、仲間へ過剰に求めるがゆえに起きている不幸な事件も多いことも挙げています。

    そのうえで、生の世界を直観力で切り抜ける能力(必ずしも正解を導き出す必要はなく、不正解でなければいいということ)を鍛えることが大事であるとし、そのためには現実の世界と身体を使ったリアルな付き合いをする必要があると記しています。そして、仲間と一緒に過ごすことが人間の幸福につながることは、新型コロナウイルス感染症が過ぎ去ったあとも変わらないと結んでます。

    引用元
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    『スマホを捨てたい子どもたち 
     野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』(ポプラ社刊)
     著/山極 寿一 
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