私の本棚
清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。
『ウイルスの意味論』 山内一也
- 出版社: みすず書房
ウイルスー生物とともに進化してきた「生命体」でありながら、細胞外では活動しない「物質」。多くは外界では「死ぬ」が条件によっては「復活」もする。
ウイルスは、人の体内にも存在し、人はウイルスとともに生きている。人からだけでなく、ウイルスの視点からも説明をしている一冊です。以下のようなことが記されています。
・20世紀後半から、都市化や人口増加、環境破壊や温暖化、家畜やペット環境が変化したことによって、ウイルスは30億年にわたる生命史上初めての環境激変に直面し、寄生するウイルスも増殖の場を乱された。同時に、ウイルスに新天地へ進出するチャンスを与えた。
・天然痘、麻疹ウイルスのような高い伝播力・致死率の病気を起こすウイルスは、生き続けるには未感染の人が必要であり、宿主の生物が高密度に集まっている環境でなければ存続できない。その意味でこれらの病は、都市化や畜産業の発展などへ舵を切った人類の宿痾と言える。今後も毒性の高い病原ウイルスが出現するリスクはさらに高まっていくだろう。
・ウイルスのなかには、ヘルペスウイルスのように体内に潜伏しているものもある。これらのウイルスは麻疹ウイルスなどと比べると生存に長けている。増殖して病気を起こすこともあるが、共存をしている。逆に人の健康に寄与している可能性のウイルスもある。
・ウイルスに対するDNAワクチンの開発が進んでいる。ウイルスそのものを用いないという長所と、新たなウイルスに対してすぐにワクチン化できるという点は、革新的な技術と言える。
『けものたちは故郷をめざす』 安部公房
『円周率の謎を追う』 鳴海風
『小説 日米食糧戦争』 山田正彦
『「便利」は人を不幸にする』 佐倉統
- 出版社: 新潮選書
2011年3月11日の東日本大震災によって、技術を駆使した経済的繁栄には様々なリスクが埋め込まれているということを日本人は体感させられた。福島第一原発事故は「便利」が人を不幸にした典型的な事例だ、と著者は指摘しています。
そのうえで、日本社会は異論や主流でない意見への許容度が低い。しかし、単一の生態系が環境の変化に対応できないように、さまざまな意見が存在している多様性こそが長い目でみれば社会を安定させる、と述べています。そして、「異論」を適切に評価し、少数意見をどのように常駐化させていくかが課題である、とまとめています。
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佐倉統『「便利」は人を不幸にする』(新潮選書刊)
『ソクラテスの弁明』 プラトン / 『プラトン ソクラテスの弁明』 岸見一郎 /『マンガで読破 ソクラテスの弁明』プラトン
『文化の居場所のつくり方 久留米シティプラザからの地方創生』久留米シティプラザ編集委員会 編集 槻橋 修 監修
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』 加藤 陽子 著
- 出版社:朝日出版社
高校生に行った近現代史の講義をまとめた一冊。教科書だけでは分からない、その時その時に各国及び各人はどう考えていたのかを教えています。
アメリカ人歴史家 アーネスト・メイの主張3点を紹介しています。
(1) 外交政策形成者は、歴史が教えたり予告したりしていると自ら信じているものの影響をよく受ける。
(2) 外交政策形成者は、通常歴史を誤用する。
(3) 外交政策形成者は、そのつもりになれば、歴史を選択して用いることができる。
そのうえで著者は、人々は重要な決定をするときに、自ら知っている範囲の過去の出来事を、自らが解釈した範囲で、今回の問題と一致しているか見つけ出す作業をしている。よって、結果的に正しい決定を下せる可能性が高い人というのは、広い範囲の過去の出来事が、真実に近い解釈に関連づけられて、より多く頭に入っている人だ、と述べています。
「おわりに」では「類推され想起され対比される歴史的な事例が、若い人の頭や心にどれだけ豊かに蓄積されファイリングされているかどうかが決定的に大事なことだ」と結んでいます。