私の本棚

清水ひろしが最近読んだ本をご紹介いたします。

『ラッキーボーイ』 スーザン・ボウズ作 柳田邦男訳



私の本棚 84

      出版社:評論社

    先日の柳田邦男絵本大賞表彰式に出席した折に借りた絵本。
    名前さえつけてもらえず、飼主に相手もされない犬と、愛妻を亡くしたおじいさんとの出会いの物語。
    無関心や無視をされる疎外感、孤独感といった、今の社会でも抱える問題を通して、ふれ合い、心通わせて生きることの幸せが描かれています。

『そのマンション、終の住処でいいですか?』 原田ひ香


私の本棚 83

      出版社:新潮文庫

     有名建築家の設計によるデザイナーズマンション。デザイン優先によって建てられたため、雨漏りなどの欠陥が露わになり、その建替えをめぐる住人たちの物語。そして、建設に関わった者しか知らない重大な問題をこのマンションは抱えていた。

    住人や関係者たちの背景が、詳細に描かれています。

    ***
    原田ひ香『そのマンション、終の住処でいいですか?』(新潮文庫)

『砂の女』安部公房 /『100分de名著 安部公房「砂の女」』


私の本棚 82

      出版社:新潮文庫 / NHK出版

    人間は日々、砂の中でもがいているようなものなのかもしれない。
    今の状況から抜け出したい、自由になりたい、と思っている。しかし、人間は何かに帰属しなければ生きていけない。
    あるいは自分の存在意義を見つけったかったり、世の中に認めて欲しいと思っている。

    砂の中に閉じ込められた主人公の仁木順平は、偶然をきっかに、現実から逃げる必要性を感じなくなり物語は終わる。
    変化していく主人公の心理を通して、真の自由とは何なのか、真の自由などあるのか、といったことが描かれています。

    ***
    安部公房『砂の女』(新潮文庫)

『関東大震災』 吉村昭


私の本棚 81

      出版社:文春文庫

    大正12年 1923年9月1日に発生した関東大震災から来年100年となります。この作品には、火災旋風、密集によるその被害の拡大、流言等、その時何が起きたのかが詳細に記されています。

    災害時に起きる事象、人の心理状態や意識・行動といったものも踏まえた防災対策の必要性を、あらためて認識しました。

『緑内障の真実』 深作秀春


私の本棚 80

      出版社:光文社新書

    緑内障とは、原因不明だが、シンプルにいえば、「様々な原因で起こる視神経障害を含む病気の集まり症候群」であり、正しい知識が重要だ、とまず述べています。

    患者は少なくとも600万人以上、軽い患者を入れると視神経障害は1000万人以上と推測され、今後さらに増加すると言われています。早期や中期では点眼剤が重要であり、手術については、末期になる前にいい医師の手術を受けるべき、と指摘しています。

    そのうえで、100歳まで生きる現代において、緑内障によって70歳代80歳代で失明するようにならないよう、眼科外科医の重要性を訴えています。

『22世紀の民主主義』成田悠輔


私の本棚 79

      出版社:SB新書

    著者は、民主主義的な国ほど、経済成長が低迷し続け、民主主義の劣化が加速度的に進んでいることを、まず指摘している。

    そのうえで、解決するためには選挙や政治、そして民主主義というルール自体をどう作り変えるかであり、その一つとして、政治家の要らない、アルゴリズム(問題解決のための手順をコンピューターのプログラムとして実行可能な計算手続きにしたもの)による意思決定を提案しています。

    私たち一人ひとりが民主主義と選挙のビジョンやグランドデザインを考え直していくことが大事だと述べています。

『レーテーの大河』 斉藤詠一


私の本棚 78

      出版社:講談社

    物語は終戦直前の満州から始まります。2人の陸軍軍人によって助けられた3人の子ども。時代は流れ、この2人と3人が、やがて昭和39年の東京オリンピック前に出会うことになります。

    ストーリーは、列車からの転落事故死をきっかけに展開されていきます。

    昭和20年8月15日に終戦となり、そして復興の象徴となるオリンピックを迎え、多くの日本人はその過去を忘れて、あるいは全てを飲み込んで戦後生きていった。一方で、飲み込めない、飲み込まない人たちもいた。その思いが登場人物に描かれています。

『人の心に働きかける経済政策』 翁邦雄


私の本棚 77

      出版社:岩波新書

    経済学では、人は合理的期待に沿って最適化行動をとる、という前提のもとに考えられています。しかし、人は、利益よりも損失の痛みを強く感じたり、過去の出費にこだわった判断、社会規範や他人の目といったことなどから、実際にはそうとは言えない判断と行動をとります。

    著者は、人がとる行動を踏まえた行動経済学の視点を指摘しています。

『デジタル・ファシズム』 堤未果


私の本棚 76

      出版社:NHK出版新書

    デジタル改革の名のもとに、日本の国家機密や個人情報が他国や海外巨大企業に流出していくことを指摘しています。怖くなります。
    また、我々は自ら選んでいるつもりでも、実は、情報を提供している私企業によって選ばされていると述べています。

    著者は教育分野でのデジタル化にも触れ、情報過多によって想像力が狭まることを懸念したうえで、GAFAは個人情報やプライバシーだけではなく、私たちが自分で自分の行動を決める「未来を選択する権利」をも奪っていると述べています。

    なお、自分で情報を探すことの重要性を実践している例として、荒川区の学校図書館活性化計画が取り上げられています。

『なぜ日本の野党はダメなのか?』 倉山満


私の本棚 75

      出版社:光文社新書

    政党についての戦前から現在に至る流れと時々の動き、あわせて各党への批判が記されています。

    一瞬にして言動が変わるのが自民党政治の真骨頂だと指摘し、過去の言動などなかったことにするのが伝統と化している。しかし、有権者の選択肢がないため、むしろ「自民党を批判しても仕方がない」との風潮にまで至っていると述べています。

    そのうえで、「最低でも二つの選択肢がなければ、選挙などやる意味がありません。選択肢が一つしかないということは、一党優位を生みます。そして、その一党は無限大に腐敗します。代わる選択肢がないので、何をやっても与党でいられるからです。健全な批判勢力があるから民主政治です。政権担当可能な野党第一党があるから、与党も油断できない。それでも弛緩するなら、選挙で与党から叩き落とせばいい。」と論じています。

    そして最後に、もう「野党がダメだから自民党に入れるしかない」という政治は嫌だと有権者は主張すべきだと、まとめています。


    「倉山満『なぜ日本の野党はダメなのか?』 / 光文社新書」

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